DISC GUIDE

MOON COUNTRY <1st full album>
2015.5.1 / MOON COUNTRY / MOCO-002 / 2,315 yen (+tax)
1. 月に猫の足あと
2. ムーンライト・ワルツ
3. パレード
4. サンバと夜とやわらかな月
5. みんなのうた(Album ver.)
6. 夏の夜のブルース
7. Brazil Brazil
8. ダ・ボン-素晴らしき日々-(Album ver.)
<Musicians>
安宅浩司:Electric Guitar, Pedal Steel, Dobro, Mandolin, Banjo
山口ゆきのり:Hammond B-3 Organ, Rhodes Piano
アンドウケンジロウ:Tenor Saxophone
五野上欽也:Electric Bass, Double Bass
辻凡人:Drums, Chorus, Tambourine, Glocken, Triangle
ザ・ハイタイムローラーズ
曽我清隆:Trumpet & Horn Arrangement
タイロン安在:Clarinet
石原由理:Trombone
五味伯文:Banjo
根岸潤一郎:Bass
Produced by 辻凡人
Cover Illustration & Artwork 菅野カズシゲ
DISC REVIEW
あの汽車に乗って月の世界に出かけよう
―満を持しての新作は、原点回帰の旅
2015年1月、曽我清隆率いるニューオーリンズ・ジャズバンド、ザ・ハイタイムローラーズを迎えて制作された7インチ・シングル『みんなのうたEP』は、本格的なトラッド・ジャズへの挑戦、男臭く迫るシャウトが刻まれた歴史的セッションだった。このセッションは新境地開拓の瞬間であり、同時にそれは原点回帰への旅の始まりでもあった。5年ぶりのニュー・アルバム『MOON COUNTRY』は、めくるめくアメリカン・ルーツ・ミュージックの旅だ。
シングル・リリース記念企画で行なったキム・ガンホとの座談会でもスチョリ本人が触れていたが、近年はザ・バンドやジェフ・マルダー、ドクター・ジョンなどのルーツ・ミュージックに再び触れる機会が増えていたという。ラリーパパ&カーネギーママ時代、バンドで表現していた音楽性を今度はソロ・アーティストとして真っ向勝負を挑んだ。もちろん“スチョリ”というフィルターを通すわけだから、そこは一筋縄ではいかない。
レコーディングに参加したミュージシャンは前述のザ・ハイタイムローラーズを始め、かねてからスチョリと親交の深いメンバーが顔を揃えた。ギター、スティールギター、マンドリン、バンジョーはリクオや中村まりなど数々のミュージシャンのサポートを務めてきた安宅浩司、ハモンド・オルガンには「スチョリくんとヤマグチくん デュオ・ツアー」で息の合った鍵盤プレイをみせるFULL SWINGの山口ゆきのり、ベースには森は生きているなどのサポートでも活躍している五野上欽也、さらにカセットコンロスのアンドウケンジロウもサックスで参加、そしてドラムは辻凡人だ。辻はアルバムのプロデューサーとしてもその手腕を発揮している。ドラマーとして、そしてプロデューサーとしてアルバムの土台を支えているのは言うまでもない。
“月の世界に出かけよう”と歌う「月に猫の足あと」から始まり、感動的なワルツ・ナンバー「ムーンライト・ワルツ」、疾走感のあるバンド・アンサンブルが心地良い「パレード」、アルバムで最もレイドバックしたサウンドとヴォーカルが堪能できる「夏の夜のブルース」、さらに既発シングル「みんなのうた」と「ダ・ボン -素晴らしき日々-」はステレオ・ミックスが施され、モノラル・ミックスのシングル・ヴァージョンとはまた違った輝きを放っている。そしてアルバムのアートワークはシングルに続いて菅野カズシゲが手がけている。中央に描かれたキャラクターは誰なのか、“MOON COUNTRY”とは実在するのか、いくつもの想像をかき立てる仕上がりだ。
自身のレーベル名をアルバム・タイトルに冠した『MOON COUNTRY』。先達から受け継いだ音楽への愛情と敬意を乗せた汽車は、広大なアメリカの大地を駆け抜けていく。その先にある月の世界に向かって。
ALL SONGS GUIDE
1. 月に猫の足あと
スチョリが弾く美しいピアノのイントロから始まり、サビでは”月の世界に出かけよう”と歌われる。このアルバムの幕開けにこれほど相応しいものはないだろう。辻凡人のグロッケンとトライアングル、そしてザ・ハイタイムローラーズの五味伯文によるバンジョーがカラフルな月の世界を演出している。
2. ムーンライト・ワルツ
1曲目の「月に猫の足あと」に対して、こちらは”モノクロの月の世界”といった趣きだ。安宅浩司のペダル・スティールと山口ゆきのりのハモンド・オルガンが絡み合い、幻想的なワルツ・ナンバーに仕上がっている。
3. パレード
聴いてすぐにそれと分かる、辻凡人の「ドンッ」というドラムに心が奪われる。ドラム、ベース、ギター、ハモンド・オルガン、ピアノというアルバムの中で最もシンプルなバンド編成。ポップで疾走感溢れる演奏が心地良い。
4. サンバと夜とやわらかな月
カセットコンロスのアンドウケンジロウがテナー・サックスで参加し、しっとりとジャズの世界に浸ることができる。ひとつ下の世代となる五野上欽也のウッドベースも聴きどころのひとつだ。
5. みんなのうた
ザ・ハイタイムローラーズを迎えて制作された先行シングル(7インチ盤でのリリース)。本格的なトラッド・ジャズへの挑戦が見事に結実した。シングル・ヴァージョンはモノラル・ミックスだったが、ここではステレオ・ミックスが施されている。ステレオならではの奥行きと広がり、そして透明感と重厚感。別テイクではないかと思わせるほどの違いが興味深い。
6. 夏の夜のブルース
かつて在籍していたバンド、ラリーパパ&カーネギーママを彷彿とさせるロック・ナンバー。歌い出しの「ギターを手に」という一節、男臭くシャウトするスチョリがなんとも印象的だ。ロビー・ロバートソンよろしく、安宅浩司のギターも素晴らしい。
7. Brazil Brazil
アルバム唯一のインスト・ナンバーは自身初のインスト・ナンバーでもある。オールドタイミーな楽曲は今作の幅広さ、奥行きを感じさせる。
8. ダ・ボン -素晴らしき日々-
最後はこの歌しかないだろう。先行シングルのB面曲でもあり「みんなのうた」同様、ステレオ・ミックスが施されている。2013年12月に他界したオクラホマ出身のシンガー・ソングライター、ロジャー・ティリソンに捧げられた歌だ。2014年夏、ラリーパパ&カーネギーママを代表してギタリストのキム・ガンホが彼のお墓参りのため渡米。その旅を綴った「キム・ガンホのタルサ旅日記2014」にインスパイアされて書き上げたものだ。(詳細な経緯などはこちら)まるで映画のエンドロールを見ているかのようなクロージング・ナンバー。